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キャッシュフローってなに? お金について考えよう4
第一章 キャッシュフローってなに?
キャッシュフローという言葉を聞くと、会社の経理や会計で使われる難しい専門用語のように感じるかもしれない。しかし、言葉そのものの意味は驚くほど単純である。キャッシュは現金、フローは流れという意味だ。つまりキャッシュフローとは「お金の流れ」である。
たとえば、財布に一万円入っているとする。この一万円だけを見れば、分かるのは「いま一万円持っている」ということだけだ。しかし、その一万円がどこから来たのかを考えると話が変わる。アルバイトの給料として入ってきたのかもしれないし、昨日銀行から引き出したお金かもしれない。友人から借りた一万円かもしれない。どの場合でも財布の中には同じ一万円があるが、その意味はまったく違う。
さらに、その一万円がこれからどこへ行くのかも重要である。三千円を食費に使い、二千円で本を買い、残った五千円をそのまま持っているかもしれない。あるいは一万円すべてを使ってしまうかもしれない。このように、お金はある場所へ入ってきて、そこから別の場所へ出ていく。キャッシュフローとは、この動きを見るための考え方なのである。
ここで大切なのは「いくら持っているか」と「お金がどう動いているか」は別の問題だということだ。
銀行口座に一〇〇万円ある人を考えてみよう。一見すると、かなり余裕がありそうに見える。しかし、毎月二〇万円ずつ口座残高が減っているとしたらどうだろう。単純に考えれば、五か月後には一〇〇万円がなくなってしまう。一方で、銀行口座に一〇万円しかない人でも、毎月五万円ずつ残高が増えているなら、状況は少しずつ良くなっている。
この二人を銀行残高だけで比べれば、一〇〇万円持っている人のほうがお金持ちである。しかし、お金の流れまで見ると、別の景色が見えてくる。一方は一〇〇万円からゼロへ向かっており、もう一方は一〇万円から少しずつ増えているからだ。
この違いを理解するためには、お金を写真ではなく動画として見ると分かりやすい。
銀行残高は写真のようなものである。「八月一日の銀行残高は二〇万円」と記録すれば、その日の一瞬の状態は分かる。しかし、それだけでは七月に何が起きたのかも、八月に何が起きるのかも分からない。
そこへ「七月には五万円入ってきて、三万円出ていった」という情報を加える。この瞬間、お金が動き始める。五万円という流入と、三万円という流出があり、差し引き二万円の現金が増えたことが分かる。これがキャッシュフローを見るということである。
家庭でも同じことが起きている。
毎月二五万円の給料が銀行口座へ振り込まれる人がいるとする。家賃に七万円、食費に四万円、水道光熱費に二万円、通信費に一万円、その他の支出に六万円を使ったとしよう。合計支出は二〇万円なので、その月には五万円が残る。
この場合、二五万円が入ってくる流れがあり、二〇万円が出ていく流れがあり、結果として五万円が手元に残る。非常に単純なキャッシュフローである。
ところが、翌月に一〇万円の家電を買ったらどうなるだろう。同じ二五万円が入ってきても、支出は三〇万円になる。その月だけを見ると、五万円多く現金が出ていく。収入がなくなったわけでも、生活が破綻したわけでもない。それでも、その月のキャッシュフローはマイナスになる。
ここから、キャッシュフローについて重要なことが一つ見えてくる。
「お金が減った月=悪い月」とは限らない。
たとえば、仕事に必要なパソコンを買ったために現金が減ったのなら、その支出は将来もっとお金を稼ぐためのものかもしれない。店を開くために設備を買えば、大量の現金が一度に出ていく。しかし、その設備によって何年も商売ができるなら、現金が出ていったという事実だけを見て「悪いことが起きた」と判断することはできない。
反対に、お金が増えたからといって、必ずしも良いことが起きたとは限らない。
銀行から一〇〇万円を借りれば、銀行口座の残高は一〇〇万円増える。キャッシュフローだけを見れば、一〇〇万円のお金が入ってきたことになる。しかし、それは一〇〇万円儲かったという意味ではない。返さなければならないお金だからだ。
このあたりから、キャッシュフローという考え方が少し面白くなってくる。
「現金が増えた」
「儲かった」
この二つは同じではない。
同じように「現金が減った」と「損をした」も同じではない。キャッシュフローは、利益そのものを表す数字ではなく、現金が実際にどのように動いたのかを見るためのものだからである。
企業の世界に入ると、この違いはさらに大きくなる。
たとえば、ある会社が商品を一〇〇万円分販売したとする。商品は確かに売れた。しかし、取引先との契約で「代金は二か月後に支払う」と決められていたらどうなるだろう。
会社には一〇〇万円の売上が生まれている。しかし、銀行口座にはまだ一円も入っていない。
商品を作るための材料代や、従業員の給料は先に払わなければならないかもしれない。売上はあるのに、その売上代金が入ってくるまでの間、会社の現金は減り続けることになる。
ここに、キャッシュフローを学ぶ大きな理由がある。
普段、お金について考えるときには「いくら稼いだか」「いくら儲かったか」という数字に目が向きやすい。企業についても「売上高一〇〇億円」「過去最高益」といった数字が注目される。しかし、実際に支払いをするときに必要なのは、売上でも利益でもない。
現金である。
従業員に給料を払うとき、利益という数字を渡すことはできない。電気代を払うとき、売上高を差し出すこともできない。銀行口座や手元に、実際に使えるお金が必要になる。
だから会社にとって、キャッシュフローは血液の流れにたとえられることがある。体の中に大量の栄養があっても、血液が流れなければ体は動かない。それと同じように、価値のある商品を持ち、多くの売上を出している会社でも、必要なときに現金がなければ活動を続けられない。
これは会社だけの話ではない。
給料日まであと三日なのに、財布の中に五〇〇円しかない。三日後には二〇万円入ってくるとしても、今日五千円を払わなければならないなら困ることになる。
逆に、今日一万円しか持っていなくても、支払わなければならないものがなく、明日二〇万円が入ってくるなら、それほど困らないかもしれない。
お金では「いくら」という問いと同じくらい「いつ」という問いが重要なのである。
キャッシュフローを考えるとは、お金に時間を加えることでもある。
いつ入ってくるのか。いつ出ていくのか。入ってくるより先に、出ていってしまわないか。来月の支払いに間に合うのか。その流れを追いかけることで、ただの残高だけでは見えなかったものが見えるようになる。
川について考えてみると分かりやすい。
ある池に一〇〇万リットルの水がたまっているとする。それだけを聞けば、とても大きな池に思える。しかし、毎日二〇万リットルずつ流れ出し、どこからも水が入ってこないなら、やがて池は空になる。
反対に、小さな池でも、常に上流から水が流れ込み、出ていく水より入ってくる水のほうが多ければ、水量は増えていく。
お金もこれとよく似ている。
銀行残高は、池にいまどれだけ水があるかを示している。キャッシュフローは、その池へどれだけ水が流れ込み、どれだけ流れ出しているのかを示している。
だからキャッシュフローを知ると、お金を見る方法そのものが変わる。
「いくら持っている?」
という問いだけではなく、
「どこから入ってきている?」
「どこへ出ていっている?」
「この流れは続く?」
という問いが生まれる。
そして、この考え方を身につけると、一見すると不思議なお金の現象も理解できるようになる。
利益が出ているのに現金がない会社がある。黒字なのに倒産する会社がある。売上が急増したせいで資金不足になる会社がある。反対に、赤字なのに何年も事業を続け、巨大な投資を続ける会社もある。
どれも、売上や利益だけを見ていると奇妙に感じる。
しかし、お金がいつ、どこから入り、どこへ出ているのかを見ると、その仕組みが見えてくる。
キャッシュフローとは、難しい会計用語ではない。
お金を「そこにあるもの」ではなく「流れているもの」として見るための考え方なのである。
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